詩人:アル
《その意味》
改めまして
山崎 鈴と申します
光…、主任の…?
はい、元妻です
父からもユキさんの事は
伺っています
やはり有機合成の
山崎部長の娘さん
だったんですね…
はい
…ユキさん、
お辛いでしょうね…
鈴さんも…
ええ…。でも…
私はずっと
天野を冷たい人間だと
思っていました
怒りや憎しみ
哀しみとか
人間らしい感情が
彼には欠けているんじゃ
ないかって
…ご存知でしょうが
私は彼の友人と1度だけ
過ちを犯してしまいました
その時でさえ、彼は
怒ったり、私たちを
責めたりはしませんでした
彼が亡くなって初めて
彼という人間が判った
ような気がします
彼は冷たい人間だった
訳ではなく、人として
大き過ぎたんじゃないか
と今になって思います
私は、その大きさに
気付く事もできずに
彼から離れました
……。
彼は自分を裏切った私や
友人を許したんじゃなく
誰もが持っている、
人間としての弱さを
許したんじゃ
ないでしょうか
…自分を裏切った友人に
誘われて、
同じ会社に
入社したのも
その友人を許せたから
と言うより
人としての
自分の弱さを天野自身が
克服できたからだと
私は思います
…ユキさん、ちょっと
外に出ませんか?
はい。
…怒りや憎悪、哀しみや
寂しさは、すべて自分の
心の動きです
自分の弱さから目を
逸らすことなく
それを見据えて克服する
努力をすれば
あらゆる苦しみから
自由になれる
…人を許し、自分の弱さに
負けないこと。
天野はそれを示すために
私たちの前に現れたんじゃ
ないでしょうか?
はい、鈴さん。
…なんだか、わたし
こうして星空を眺めて
いると、
光さんに見守られている
ようで、澄んだ気持ちに
なります。
あぁ…、
今にも降って来そうな
綺麗な星空…
天野 光は
天の光になったんですね
…ユキさん?
はい…?
辛くなったり
寂しくなったりしたら
私に電話して、あなたと
一緒に泣かせて下さい
はい、
ありがとうございます
鈴さんとお話出来て
あたし、本当に良かった。