詩人:清彦
笛吹きの男は奏でる
彼が笛を吹けば
風は静まり、辺りを包んで
花や草は彼の方に傾き
時間は止まったように
彼の音だけが流れ
全てがその流れのみに集まり
全てが音楽と調和し
疑うことなく寄り合うのだった
彼は周囲から愛され
豊かに溢れる歓びを
笛の音に響かせては
幸せに生きていた
しかし時代は押し寄せた
ある時、地響きのような轟音が近づき
激しい熱風の嵐が吹き荒れ
雨は赤く重く降り注ぎ
人々は恐怖に顔を歪め叫んだ
戦争は容赦なくやってきた
すべて終わったとき
彼の大切なものは
笛以外の何も残らなかった
それから彼は笛を吹かなくなった
ある時、彼の眼は
ぼんやり遠くを見つめて
若き頃の満ち溢れた光は失われ
背中は枯れ木のように曲がり
唇は見えないほど髭が覆い被さり
その色は疲れたように白かった
彼は老いていた
戦争の悪夢に覆われ
亡骸となった人は
蟲に喰われ姿を変え
土に還りその姿は失われ
その上に次々と
花が咲き乱れて色が甦り
風に吹かれ踊っては
蝶々たちが甘い臭いに誘われ
その周囲をまた彩るのを見た
彼は永すぎる時の流れを
幾度も見つめていた
そして、許したように
ゆっくり頷いては
静かに笛を吹き始めた
その音は老いていてゆったり伸び
あの頃よりも優しく
哀しみや慈しみも含んでいた
風は静まり、辺りを包んで
花や草は彼の方に傾き
時間は止まったように
彼の音だけが流れ
全ての周囲がその流れのみに集まり
失われた人々も
哀しみや慈しみ
今までの過去の全てと現在の全て
それら全てが、音楽と調和し
疑うことなく寄り合うのだった
その時、これらはもはや
あの頃と区別がつけられなかった
演奏を終えて彼は
笛を手放し、空中を見上げて
座ったまま、動かなくなった
そしてまた、時間は流れ
彼は土に還り姿を消し
その上には花が咲き乱れた