詩人:蒼月瑛
体内の臓物から何かが込み上げてくる。
この感覚。何で気付かなかった。この視線に。
あいつは悲しそうにうつ向きながら、泣いている。
ごめんなさいと呟きながら。
く…来るな。来るな。
気付いた時には、一心不乱に逃げていた。逃げた。逃げた。逃げた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
背後から聞こえてくる囁き声。
全身が寒い。冷たい汗が滲み出る。
影が俺を追いかける。
前がよく見えない。何でだよ。目を力一杯に拭う。
その時
光りが閉ざされた。
逃げ場なんてないんだ。
怯える俺に、立ち塞がったあいつは嬉しそうに笑って見せた。
初めて見る嬉しそうな笑顔に
恐怖は高まる
震える俺は情けなく立ち上がれない
そうまるで生まれたての子馬のように
そしてこいつはまるで、子馬を襲わず立ち上がれず苦しむ姿を楽しむ死神のように
もう駄目かも知れない
さあ早く殺してくれ
そう覚悟を決めて目を瞑った。
その時にはもう身体の震えは消えていた。
包む静寂と多重する時間
どのくらい経っただろう
積み上げられた時間の重みに耐えかね俺はそっと片目を少し開けてみた
影の先のあいつは
悲しそうにうつ向きながら、泣いていた