詩人:地獄椅子
はじめに黒があった。
誰が創ったのか、白が生まれた。
俺の中に白が侵入する。
理性がぼやける。
初期衝動が薄まる。
アシッドブラッドは激しく抵抗する。
化け物は悲鳴をあげる。
白に侵された世界は、のっぺりとしたなあなあだけがはびこる。
猟奇的嗜好者は益々、気狂い染みた薄笑いを見せる。
ペテン師が暗躍する裏の舞台では、従順な者が奪われる。
ピエロが開催するサーカスに、みんなは目を輝かせる。
紙のダイスは踏み潰される。
黒は居場所を探す。
新聞記者は真実を教えてくれない。古きものは即物的に廃棄処分される。
文明の光が恐竜の化石を発掘した時、何かが始まり何かが終わった気がする。
歴史学者の考察で黒はもう、ティラノザウルスに等しいと診断された。
地学では地層の断面が幾重にも成って、地球の足跡は消されながら、積み重なることを示している。
空の海を泳ぐ夢を見たシーラカンスは科学が否定した。
何もかも、証明されなければ真実ではないらしい。
骨と肉は軋みながら、白い戦場へと徴兵する。
偉い人がそう決めたんだ。
優しい傷付け合いのシステムの中で、荒地は次々に開拓されて、今では天動説が莫伽らしく思える。
発見も理論も新しいものが引っきりなしで生まれるのに、虚無だけはどうしてか、消えてくれないよ。
闇の最深部で懐かしくて新しい何かを待ってる。
それが最後のジョーカー。
白が誕生して、除々に広がって、辺り一面から闇を抹殺して排除した。
はじめに黒があった。
はじめに黒があった。
最後の最後も黒だろう。