詩人:橙丸
少しだけ
開いていた窓から
一粒の雨が
俺の手の上ではじけて
小さな透明のしずくになった
それはゆっくりと
俺にしみこみ
俺の一部となる
いっしょに生まれた
何万
何億
何兆
何京の
雨粒の中で
広大な地上の
一台の車の
狭く開いた窓の隙間に飛びこみ
いま俺に触れたんだ
なんてすごい偶然だろう
なんていう確率の中で
お前は俺にたどりついたんだろう
そんな
気の遠くなるような偶然を
俺は愛している
あの日すれ違った風も
あの日見上げた空も
あの日降り注いだ星明かりも
そこに
俺がいて
その瞬間だけに
それらが存在していて
だから
毎日見慣れている
当たり前の風景でさえ
ほんとうは特別なのかもしれない
この世界に
無数の人が生まれ
無数の人が死んでいく
その中で
同じ国に生まれ
同じ時代を生きて
同じ場所に立って
同じ空気を吸った
気の遠くなるような偶然の中
俺は
いくつかの特別な出会いをして
そして
同じ数だけ
特別な別れをくり返して
でも
それはいつしか
俺にしみこみ
俺の一部になっている
だから
俺は
そんな偶然を
愛しているんだ
いつだって