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[159363] 残り火

詩人:どるとる


強がるためだけの微笑みを空に投げ
静かに
ふたりはゆっくり
画面の隅へと
消える

たとえば映画なら
悲しい場面だけど
ただ悲しいだけでは
言葉が足らないよ

セリフなんか
どうだっていいし
台本なんか
あるはずもないけど

さよなら
おきまりの言葉がふたりの耳に届いたら
ふたりはその言葉を合図に背中を向けてもう振り返らない
それぞれの明日へと歩き出すんだよ

もう出会うこともない
別れのストーリー
エンドロールに
流れる歌もなにもないままただ悲しみだけが残る
ほころんだ記憶
いくら埋めても
埋めきれない
胸にぽっかりとあいた穴

まるで残り火のようにいつまでも煙を立てて懐かしい君の匂いが涙をさそうよ

あのころはあたりまえだった手をつなぐことも恥ずかしげもなくキスを交わすこともできない

主役をおろされた
俳優みたいな
気持ちとは
ちょっと違うけど
似たような
立場で
ぼくは
画面からは見えない隠れた場所で人知れず営みを繰り返す

たとえば朝
目玉焼きを焼くように
たとえば夜
ひとりぼっちお酒を飲むような

そんな場面に感じるさびしさをひたすらかみしめ堪えながら

残り火を消そうとムダな強がりで無理やり笑ったりしても
やっぱり愛している気持ちは今でも変わらないんだ

君はぼくが今まででいちばん愛した人だから

今も変わらないさ
残り火は消えてないさ
懐かしさで胸はいっぱいだよ

大人げないね
終わったはずの恋を
引きずりながら
振り返ってばかりいる
終わった映画
明るくなった映画館
いつまでも
残ってる客のように
ぼくはいつまでもいつまでも記憶の中で君の微笑む姿を何度でも思い出しては悔やんでるよ

本当はねさよならなんて言いたくなかったのにね
まるでそれが運命かのように静かにまぶた伏せ君が去り行くまで目を開けられなかったぼくの弱さが出たね。

2010/08/07 (Sat)
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