詩人:ヒギシ
涙で滲む目に映る
街の灯りが揺れている
白いベランダに座りのぞんだ
遠い星達に念でも送る方が
あの灯りの下の人間に訴えるより
余程簡単ではないか
届かないと知ってて夢見てる
それは幸せなことだろう
記憶の中小さな手が
汚い小瓶を掘り出して
きらめく宝石を期待していた
塞いだ耳に流れ込む
自販機の操作音と足音
此処には生い茂る木も囀る鳥も
セーヌの水面もガムランも
澄んだ星空だって無い
あるのはか細いこの腕と
休むことのない心臓だ
脈打つ血流が愛しい
救急車のサイレンが邪魔をする
睨み付けた夜空に光が流れた
なんだ、飛行機
低い音を響かせて
遠い国へ飛んでゆく
ただ一つだけ馬鹿みたいに煌めいた
あの星の名前は何てんだ
辞典に載るより遙か昔に放った筈の
強い光が眩しくて美しかった
揺らめく光の水面下には
同じく小さな人間が居るのかと
滲まない視界が嘘のようだった