詩人:どるとる
寒い冬の日の話
愛するふたりは肩を並べて歩いていた
ふいに鼻をついた
甘い香りに誘われて
石ヤキイモを買った
ヤキイモはふたつに割って
狭い駐車場の車止めに座りお話しながら
おいしいねって笑っていつの間にか食べ終わっていた
だけれどあの夜は幻
僕の隣には今
君の影も形もないから
君と食べた石ヤキイモはおいしかったけど
君とはもう永遠に食べられないから
ひとりで食べてもおいしくないのに
いつも冬になるたびに買ってしまうよ
ひとりじゃやっぱり
おいしくないよ
ひとりじゃやっぱり食べきれないよ
石ヤキイモで思い出すあの日の夜
思い出すたびにあふれ出す涙で粉雪が舞う景色がにじんでしまうんだ
そんな石ヤキイモの夜
残り火のように
煙を立てて
今も僕を切なくさせる
甘い思い出なのに
やけどしたみたいに
ほら 今も心に刻まれた傷跡がうずくよ。