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詩人:旅人モドキ(左利き)
気球の影が ぼんやりと映る野を見おろして
きみは写真を撮っていたよね
ときおり吹きつける風の冷たさに 手先を震わせながら
かじかんだ掌をこすり合わせて 温めた指でシャッターを切る
きみが何だか幼くみえた瞬間
騒がしい街の雑踏から遠ざかり バルーンに夢まで膨らませては
あどけない仕草を雲のじゅうたんに振りまく
きみにクギづけで菜の花畑のザワメキさえ胸に響かず
我を忘れてふわりと浮遊する心が 澄みきった空色をつきぬけるほど漂っては
あの山のてっぺんに積もる雪のように
穏やかなひざしによって解かされてゆくよ
ポストで発送するはずが内ポケットに入れてしまった
猛烈なことばで埋められた紙片は ゆうべの雨で勢いを増した
眼下にある滝に飲みこまれ きみへ導く奔流とともに河をたどり
海までストレートに届くのだろうか