詩人:夕凪
私が二十歳の誕生日を
迎えた時、
生まれて初めて父が
プレゼントを
買ってくれた‥
兄2人の兄妹の末っ子
そんな私は
それまでずっと
男の子みたいな
格好ばかりしていた
そんな私が成人した時、
父が意を決した様に
「買い物に行くぞ」と言い
母と私を連れて、
大きなモールの時計店に
づかづかと入って行った‥
「成人のプレゼントやから、お前の好きなのを選べ。」
と言われ、選び始めるも
私が選ぶ物はどうしても
兄譲りの
男性的なデザインばかり‥
見かねた父が
「お前が選んだらあかんなぁ、これにしろ。」
そう言って手渡してきた
時計は‥
当時の私には
付けるのが
恥ずかしくなる様な
華奢なシルバーの
上品な時計だった。
先日、古い荷物を
整理していたら、
いつの間にか
無くしてしまったと思っていた
その時計が出てきた‥
電池はとうに切れ
動きはしないけど、
あの日の父の
少し照れながら
選んでくれた顔が
そしてその父の隣で
優しく見守る様に
微笑んでいた母の顔が
鮮明に思い出された‥
父からもらった
プレゼントは、
これまでの生涯で
あの時計一つだけ‥。
正直言うと
当時は恥ずかしくて
あまり付ける事を
しなかった‥
でも、今の私には
とてもしっくり
馴染むのだ‥
もう一度この時計を
動かしてみたいと思った‥
あの日の両親の
私という娘に対する
温かな想いが
今になって
私に浸透した‥
これからは
この華奢な時計を
大切に身に付けて
あの時の
両親の気持ちを胸に
娘としての
愛を返しながら、
時を刻んでいきたいと
思った─‥。