詩人:アル
麻痺したその左足は
もう片方に較べて
半分の太さしかなく
握り拳分も短かった。
普通なら嫌がるはずの
体育の時間も
みんなより
一つ年上の君は
屈託もなく笑って
楽し気に見えた。
かけっこはいつも
みんなの背中を
見ながら
追いかけて来る。
運動会の日
左足だけゆるゆるの
決して新しくもない
靴を履いて
いつもの通りに
君はビリだった。
それでも
波打つように
懸命に走る君は
誰よりも
毅然としていて
子供だった
僕の目にも
眩しいくらいに
輝いて見えた。
月日は流れ
ふと入った
街のメガネ屋さんで
偶然君と再会した。
失語症だった同級生の
今は朗らかに
喋れるようになった
お嫁さんと
彼女に抱かれた
生まれたばかりの
女の子に
目を細める君は
やはりあの頃と
同じように口元を
逆三角形にして
高らかに笑いながら
しっかり生きていた
街のメガネ屋さんの
若き店主として。
君は左足を
バネにして
全身全霊で
走り続けていたんだ
あの頃から今まで
ずっと。
…店の外に出て
空を見上げると
灰色の雲間から
斜めに射し込む
光の微粒子たちが
淡くキラめいていた。