詩人:望月 ゆき
街外れの小さな本屋で
彼女と再会した
偶然。
本屋でよかった
きりりとした空間では
おしゃべりにならずに
すむ
彼女が手にしている
水色の背表紙の本が何であるか
なんてことは
気にする余裕はなかった
今日のぼくのシャツは
かつてぼくらが恋人同士だった頃にも
着ていたものじゃないか、と
気づいたら
そればかり気になる
物持ちよくっていやになるよ
ページをめくる音は
嘲笑のようにも聴こえ
この場を切り抜けるすべを
探る
人はいつも変わりたいと願い
人はいつも変わらないでいて欲しいと
願う
好きだった人なんかには とくにだ
程近い小学校の
チャイムに助けられ
ぼくは レジに向かった
小銭を差し出すときになって
彼女が手にしていた本が
なんだったのか
気になってしかたない
出口でちょっと泣きそうになり
気がついた。
懐かしさを恋ととりちがえるほどに
偶然すらも
必然ととりちがえそうになるほどに
今のぼくは
さみしいのだ。
気がつけたら
途端に
なぜだかとても
イキワクな気持ちになり
下校途中の小学生の
ランドセルの波に
するすると乗りながら
今週末はサーフィンにでも
出かけよう、と
さっき買った雑誌を
脇にギュッと挟んで
小さな本屋にお尻をふった。