詩人:剛田奇作
詩人
詩人は忙しい
詩人には
確かめなければならないことが女子高生の父親なみにある
詩人には
それぞれ救うべき人間が
脳外科医なみにいる
詩人には
越えるべき障害が大統領なみにある
詩人には
奏でるべき音楽が音楽家なみにある
詩人は
そう詩人は
地軸の辺りで地球を必死に回しているけれども
詩人がいなくても地球は回るかもしれない
詩人は言葉の将棋士だが大手をかけられると
板をひっくり返す
詩人は
詩人は時々
鏡の前に裸で立っていたりする
詩人は氷水を用意しろと言われたら北極まで行ってしまう
詩人は恋人とどれほど強く抱き合っても
その隙間には言葉がある
詩人は
詩人は言葉を愛しているが
言葉に愛されるかは謎だ
詩人は
神さまに好かれる
神さまにゴマをするのが上手いから
詩人は
形のない何かに形を与え
何もない何かにも形を与える母である
詩人の体をメスで開くと
肝臓には消化しきれず残った言葉の残骸がある
詩人
詩人は
転ぶ瞬間も詩のことを考えている
詩人
詩人を創り出す作業は
非常に難しい
だが詩人は無人島に行くとおそらくすぐに死んでしまう