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[156352] 仮想ジャメヴュの捲土の灯【1】

詩人:トケルネコ

地図にはない辻の喫茶店にはアヒルの親子の看板がかかっていて
夜の早いうちに閉店し、太陽の真っ赤な欠伸と一緒に店開きをするそうな。
椅子は全部で12脚。花瓶や本はないらしく、壁には一面様々な色彩の絵が飾ってある。
客はといえばたまに近くの鉱山の小人達がやってきては、
しばし座席で居眠りするぐらいで、メニューはいつだって埃を被ってる。
ツツムラさんはそんな喫茶店の気のいいマスターで、愛猫のビニールと一緒に
少ない客をいつも日溜まりの席で待っている。

ある日、段々畑の画を観ていたビニールが突然叫んだそうな。
『案山子がいなくなってるよ!』
ツツムラさんは小人との会話を止め、慌てて飛んできたそうな。
砂漠の段々畑は相変わらず枯れていて、そのピラミッドような
巨大な畑の頂上にいつもいるはずの案山子が、確かにいなくなってたらしい。

こいつはまずいと、ツツムラさんは困った時のいつもの癖で
立派なモミアゲを指に絡めたり引っ張ったりしていたが、
小人達がそそくさと席を立ったのを見て、意を決したそうな。
『あいつら抜け駆けする気だね。』
ビニールはそう言うと、店を出て走りだした小人達を細い目で睨んだ。
ツツムラさんは暖炉から錆びた長火箸を抱え、火の精を少しポッケに忍ばせて
傘の形になったビニールを掴むと、段々畑の絵の中へ飛び込んでいった。


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2010/05/25 (Tue)
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