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[46607] 左ハンドル

詩人:不乱句詞な虎

俺は金持ちイケメンボーイ。愛車はシボレーブレイザー。たまには1人で週末に、映画館でも行ってみようと、車を走らせマイカルシネマ。地下駐車場へ滑り込み、行く手を遮る入り口の遮断機。助手席の向こうで声がする。「駐車券をお取り下さい」 俺の心の中で会議が始まる。身を乗り出すか、降りて行くか。二つに一つだ。 とにもかくにもとりあえず、シートベルトを外そうと、スイッチを押したその手に、手応えを感じなかった。シートベルトは壊れてた。シートベルトは外れない。後ろの車は待っている。にっちもさっちもいかない俺に、ふと天啓が降りてきた。 「シートベルトを伸ばしなさい」俺はゆっくりあわてずに、シートベルトを伸ばし始めた。あとちょっと、あともう少し。 俺の渾身の力をこめた、伸ばした右手の数センチ先、悪魔の声が鳴り響く。「駐車券をお取り下さい」 シートベルトは伸びきった。とそのとき、またもや天啓が聞こえた。「シートベルトの隙間から抜け出すのです」俺の脳裏にビジョンがよぎる。シートベルトの隙間から、イモムシのようにのそのそと、這いずり出てくる俺の姿が。そんなの出来るわけがない。なぜなら俺はイケメンボーイ。愛車はシボレーブレイザー。俺は必死に考えた。天啓はもう降りてこない。クラクションの音が鳴る。悪魔の声も聞こえてくる。「駐車券をお取り下さい」 遮断機はへし折れていた。後ろの車はビックリしてた。 ※この詩はフィクションです

2005/08/29 (Mon)
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