詩人:遥 カズナ
いろんな人が通りすがるこの通りで
夫婦で弁当屋をやっていけるのは幸せな事だ
そう信じている
そんな目をした店主から
お釣と弁当を受けとる
「すみません、そばも貰えますか」
「はい」
沖縄の弁当屋には、たいがいどこの店にも沖縄そばがおいてある
左手で受け取ったポリスチレンのどんぶりを片手に
右手で前歯へくわえさせた割り箸をそのまま二つに裂く
とっさの爆音に見上げると
朝の訓練なのか
F15が上空の雲の隙間に見え隠れしながら海へ向かって旋回していく
コックピットから見える
パイロットのゴーグルには海に浮かんだ島の様子が
流れ去っているのだろうか
58号線の中央分離帯に立ち並ぶヤシの木々と
それを挟んで、押し合うように密集した街並みに対面する
フェンスの向こう側に広がる芝生をたたえ優雅に立ち並ぶ住宅地
親父が米軍の雇用員だったからなのか
不愉快だと思った事はないし
それどころか、この光景を愛しく思いもする
いつか
訓練場への移送途中だったのか
信号待ちでたくさんの兵士達を乗せた軍用トラックの後ろに着けた乗用車の私と
一瞬、目を合うわせた青年兵の
蔑むような鋭い眼光も思いだされた
「中国人も来ますか」
「はい、近くにホテルがありますから」
富裕層と呼ばれる人達が
不動産を物色しているという噂もある
中学生の頃
学校の近くに、中国人らしい家族が営む弁当屋があった
ぐれた同級生が売り物を万引きしようとしたところを
店主の息子と、とっつかみ合いになり
それがもとで停学処分となった
しばらくして
受験勉強で放課後に隣り合わせた時に
店の息子は強かったと
話してくれた
麺もスープも残らずたいらげ
満足してゴミ箱へ器を放り捨て
「ごちそうさま」
「ありがとうございました」
そばは麺類だから
起源はきっと、中国あたりにあるのだろう
本当に美味しいと思う
弁当を助手席に置き
エンジンキーを回す
射し込みはじめた朝日に
ダッシュボードからサングラスを取り出して掛ける
弁当屋の前には
中国人らしいグループが店先に詰めかけている
F15は
滑走路へ着陸姿勢に入った
それら、サングラスに映る景色のその下で
まえを見ている