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[12631] 雨細工の町

詩人:望月 ゆき

新しい長靴に浮かれて
水溜りを探し
右足をそっと入れると
次の瞬間 目が回り
どこかに迷い込んでしまった


「噴水の広場」

あやまって
噴水の真下に立ってしまった
と 思ったら
それは雨粒で
地面から雨が噴出しては
地面に落ちていた
広場には もう一人
バケツを抱えて
降ってくる雨粒を集める
少年


「街灯の下」

舗道に広げられた
灰色の布きれの上には
いくつものビー玉が転がっている
近づくと ビー玉に見えたそれは
ぷよぷよと鈍く弾み
曇り空から降る雨粒とそっくりで
布きれの上から
今にも逃げ出しそうだった
かたわらに座る少女は
やんちゃな子供をつかまえる母親のように
絶妙なスピードで手を出し
サッとそれを掴んでは
何か透明な糸に通している


歩き始めてしばらくして
気づいたのだが
この街の人たちは
みな服さえ着ていてるが
その服も体もびしょびしょに濡れてしまっている
どこもかしこも
雨粒が降ったりやんだりなのだから当然だけれど。
しかしそんなことは
誰も気にしてはいない


「レインボーホールの玄関」

小さな屋台を見つけた
威勢のいい高い声に
ひきつけられるように近づく
その屋台には
ネックレスやらブレスレットやらが
ところ狭しと並べられている
よく見るとそれはみな
さっきの少女が持っていた
ぷよぷよした玉で出来ていた
糸でつながれてもなお
その玉はぷるんぷるんと弾んでいる
屋台の看板を見ると
「雨細工」と書かれていた


どれくらい歩いたか
雨粒は相変わらず降っていて
気がつくと
服はすっかり濡れていたけれど
それも気にならなくなっていた

時折 虹がかかるけれど
光の居場所は わからなかった

そこから抜け出るすべは
なんとなく知っていた
水溜りを探せばよいのだ
長靴の右足を入れればよいのだろう

もはや そこがどこかなんてことは
どうでもよくなっていた。
とりあえず、とつぶやくと
方向転換して
さっきの「雨細工」の屋台に向かって
雨の舗道を戻ることにした

2004/05/23 (Sun)
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