詩人:剛田奇作
つまり
それはフェロモンと呼ばれるもの
男は髭を剃り
くすんだ鏡に、少し唇を切る
知らない女が寝ていた
シーツにシワがより
女の股が開かれ
男の目にははっきりと、見たことも無い惑星が宿り
古い部屋の密度が高くなるほど
解るのは、明日は白けるということだ
つまりその時が
どれだけ濃厚で
舌や耳や熱い掌を覚えさせようとしても
どの街にもあるピザ屋の配達ドライバーみたいに
特別な存在になり得ることは無く
恍惚とした二人の抽象画は
否応なしに時間を窒息させるように
無意味にも描かれた
その破壊的なミルクには柔らかく優しい
ダイヤモンドが沈んで
取り出そうとする腕は
激しく
決まり事をすべて壊してしまう
それが
フェロモン
決まり事が バラバラになる
だから
今ここには
女がいるのだ