詩人:剛田奇作
君が見えない
湖は見えるのに
スーパーは見えるのに
卒業証書は見えるのに
フライパンは焦げ付いているのに
君が見えない
君を見たい
いなくなった
君を見たい
君の吐いた血を奇麗に片付けてしまったから
君の無謀な低空飛行を笑い飛ばしてしまったから
海は見えるのに
春一番はサーモンピンクに輝いているのに
掠れたデッサンをみたい
くすんでしまった
あの
デッサンを見たい
モリエールの瞳孔に差し込む光を見たい
ふいにシーチキンが食べたくなるような要領で
ウインドウに映る意外な自分に、
思わず立ち止まってしまうように
君が見たい
君を見れたら
いつも
私の水槽に
しまっておく
今度は君を
決して無くさないために
消えていく風
伸びていく影