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[89280] 退廃的呟き (2)

詩人:番犬

真昼の三日月は血に落ちたまま、鋭いナイフみたいに地球内部に突き刺さり、深みをえぐって大陸プレートを揺り動かし、地震や悲しみや死体の腐乱臭を撒き散らす手伝いをしたり、呼吸を止めないような言葉選びを繰り返す物書きのイマジネーションをすくい上げたりの暇なしだ
ステレオから鳴り透き通るオールディーズの音色で、俺の鼓膜と心音とα波が躍動する頃、遠くの中東アジアの国境線の兵隊達を想像した
彼らと俺との時間軸の違いを自覚した
イラクやその周辺で流された血液と油は、大統領の票には変わらなかったが、クルド民族の再生に一役買ったり、兵器輸出メジャーの懐を潤し、富裕層はスーツ姿の軍服でくつろぎ、タイの農村の家の数倍のハウスのベッドルームで靴を脱ぎ、ブロンドのブロンズ像と快楽を吸い尽くしてる
彼らの挫折は平和を生まないが圧力をも生まないと世界は信じているだろう
ドルが円を強くして、円がドルを強くする利害関係の一致で、全世界の二分の一の富や財産や土地や核や軍隊が動き回る
俺の生活にもそれは入り込み、受け売りの政治思想や知性無き地政学が絶えず耳に注ぎ込まれる
相反するように机に向かい、ノートに走り書き、ビートに飛び乗る言葉を綴り続ける
スプリングの飛び抜けたソファに腰掛け、携帯のメールをチェック、数人の友人と恋人からの誘いのメールを一瞥し、一度かみ砕いた後意識の外へ放り出せば外界との交信断絶に成功だ
灰にまみれたスウェットを洗濯機に放り込み、シャワーを浴びれば塩素と言語の科学反応


続く

2006/11/12 (Sun)
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