|
詩人:高級スプーンあと何年
宗教上の理由で
豚も牛も駄目なんです
彼女はそう言って
ミディアムレアのステーキを
豪快に頬張った
整った顔立ちを無邪気に崩す
彼女の食べっぷりに感化され
負けじとナイフで
大きめに切った肉を
大きく開いた口の中に放り込む
皮膚の焼けたニオイが
内側から鼻腔へと上がり
同時に
馴染みのある鉄の味が
口内いっぱいに広がって
ああ
美味しい……!
彼女と顔を見合わせて
幸せを噛み締めるように笑った
お互い
口端から赤い肉汁を滴らせながら
かく言う私も
どうしても
食べられない肉はあって
犬や猫はもちろん
鶏や魚も無理で
頭の良い
カラスもイルカの肉も
苦手な部類に入る
無宗教だけど
誰しも好き嫌いはあるだろう?
だから
我々に割と近い
猿やゴリラの肉も少し厳しい
チンパンジーならまだなんとか
目を瞑ってだったら食べられるかな
……ハハハ
なんてね
悪い冗談だ
たった一種類を除いて
食べられる肉なんてあるものか
そういうわけで
次の食卓のお肉に選ばれたのが
きみだ
明日はハンバーグがいいな