詩人:剛田奇作
たとえば
雪山の美しさを知らずに
死んで行くのは不幸ですか
たとえば
モーツァルトを知らない音楽家は
幸せですか
たとえば
今から
愛する人に
なにもかもを放りだして
逢いに行くのは
間違っていますか
まだ届かない未来に
あの人の姿を思い浮かべるということ
たとえば
事実になることは
すべて奇跡
数え切れない可能性のなかから生まれた
たった一つの今こそ
選ばれた必然
どんなに雪山が寒くても
それは
この宇宙に一つの
戦利品
一塊の
この儚い紙屑さえ
戦利品
晴れていれば良い
わたしが天に召されるいつかの朝
きっと今朝のように
小鳥はさえずるだろう
そして
戦利品たちを
枕元にならべ
そうして
ただ
照れくさそうに
キスをしているだろう
その時にきっと
あの人の優しい溜め息になれるから
やがてくる
最期の朝に