詩人:どるとる
死に神は迷っていた
いつも病院の窓から顔をのぞかせて
こちらに手を振る
あの女の子の命を運ぶこと
あの女の子はとても優しくって
こんな醜い自分にさえ 笑いかけてくれる
いつもいつも女の子は 独りさびしそうにしています
お母さんはいないようでいつも看護婦さんだけが話し相手だった そんな女の子
死に神は鏡に映る
自分に言った
『本当に 本当に
自分は最低だ』
あんな優しい女の子の命さえ運ばなきゃいけないから
優しい死に神は
ほかの死に神とはちょっと違ってた
見た目こそ変わらないけど 心があった
だから人の痛みも人の涙も 人のぬくもりも 死に神には 届くんだ
いよいよその時が来て 女の子におまえは死ぬんだよと
暗い顔で伝えたとき
女の子は言うのです
死に神さんにそんな顔は似合わないよと
そして わかってたように女の子はどうぞと目を閉じたんです
そんな女の子がいたことを 忘れないようにすることが
自分にとっての
使命なんだと
死に神は不器用に受け入れて 女の子の魂を運んだよ
暗い病室のベッドの片隅には 誰かの涙のあとがひとつ
宝石みたいに光ってた
光ってたんだ
作り話はここまで。