詩人:甘味亭 真朱麻呂
もしもし 未来の僕よ
未来にはどんな僕になっていますか?
もう少し未来の僕の明日には光はありますか?記憶の奥深く地中に埋めたあの日のタイムカプセルは無事だろうか
無事を祈る僕はそっと記憶の部屋に忍び込んでかけてみた
数回の呼び鈴とテレフォンサービス
何回かの プッシュ音はじきに未来の僕のさめた声にかかるはずだ
代わる代わる少しずつこちらは年をとるのに何故かあっちの僕は年をとらない
だんだん若い僕にかかって行くから
だから僕が人生の半ばころにはあっちは赤ちゃんの僕だろうから
言葉はわからないし
それからかけなくなった
会話のキャッチボールは成立しない
不器用に途切れ途切れですら
だから 電話番号は間違えてはいないけど
かからなくなった
まだそのころは生まれてないから 僕は
そのときはこちらの僕は死んだあとだった
雨の葬儀の中で参列者が横に並んだ親族に礼をする
横柄な振る舞いのおやじもこの時ばかりは静粛にしてた
僕はそんな中でも電話をし続けてた
ミライ テレフォン…
ミライ テレフォン…
現在 この電話は使われておりません
そういったあとで僕は電話を切った
ガチャンと切ったそのあとにはだれも記憶の部屋には行かず
来なくなったという元の静寂よりももっと濃い静寂が無人の部屋に影のようなうっすらとした人が居た気配は消えていないにしても
今はだれもいないのは事実だから
拭えぬ現状 癒えぬ悲しみ抱いたまま
それを知る肉親さえもう居ぬのだから
僕も此処にいる意味はもうないのにも同じだ
そう言いながらドアをあとにし僕は最後にノブから手を離しどこか消える
最後にこの部屋に訪れた日にも雨が降ってた 僕が去ったあとも何ひとつ変わらぬこの世界から完全に蒸発した 水蒸気が見えないように僕はだれにも見えないのだから繋がりすら無縁で。