詩人:望月 ゆき
なにかを知るはずもないのに
海はそこにいて
呼んでいる
なにかを知るはずもないので
海はいつもそこで
呼んでいる
誰を
誰を
誰か を
きみとはどこから
どんなふうにつながってるの
白く白い
ただ白いだけの粉
の、きみは
色のない風に
足を手を額を持って行かれた
それきり
それきり
海はぐるりとつながってる、って
小さな頃から知っていたし
今も知ってる
なのにきみに遭えないでいるよ
何周したかなんて
きかないで
もっと透明をくれないか
もっともっと
透明を
透明 を
プランクトンの海では
叫んでも届かない
だってきみは白いのだし
だってきみは散り散りだから
聞こえないんだね
耳をふさぐ手さえないのに
きみを探しはじめてぼくが
気づいたことといえば
きみがどこにもいない、って
こと
それだけ
両手と両足と誰かの両手と両足と
数えきれないくらい
ぐるぐると泳ぐ間も
パークで茂りつづける
柳の樹
きみの髪にも似て
それをリーフに垂らしたまま
ぼくは待とう
やがてうとうとと
そうしてぼくは
いつしか海を忘れる
忘れて
眠ったふりをする