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詩人:たかし ふゆ
六月の末、いつもお世話になっている編集のクボタさんとの打ち合わせを水道橋の喫茶店で終えた。
あれこれとツッコミを入れながらも妥協してしまう、クボタさんの心の広さに感謝しながら、僕は東京の景色を改めて眺めながら駅へと向かった。
東京に初めて来たのが十年前。高校生だったので、景色の違いもわからない。
東京の景色は実際、歩いてみるとそう変わらない道が延々と続いているが、よく観察してみると少しずつ違っている。
観察は面白い。世界が一ミリずれる瞬間を、観ることができる。
その日帰りで、仕事を終えた僕は新幹線で福山市へと向かった。
高校の同級生と会う約束をしていたのだ。
同級生のサイトウくんは、十年前のままだった。可笑しくなって僕は笑ってしまいそうになったが、踏みとどまる。十年前と今は違うので、相手が気を悪くしては、と思ったからだ。
「お前、仕事にしたんだなぁ」
そうサイトウくんは僕に言った。彼は僕の今の仕事を知っている。同時に、僕が今でも詩を書き、詩人の部屋にいることをも知っている。
変わらない存在はない、誰しも、いつかは変わっていく。
僕は詩を書き続けているが、厳密には詩人ではなく、実際に書くのは小説が殆どなので、やはり変わってしまったのだろう。
しかし、サイトウくんは僕に「変わらねえなぁ」と、自分を棚にあげて言う。
「変わらないって、もしかして偉いこと?」
「偉くはないだろう」
僕らはバカみたいな会話をしながら、夜の福山で遊び、帰りしな、サイトウくんの車に乗って、かつて通った隣市の高校の付近をぐるぐると歩いた。