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詩人:高級スプーンあと何年
あなたは言った
「死にたいと
消えたいは違うんだよ」
いま死んだら
残ってしまうあれこれ
あべこべに生き残るそれらを
SNSのアカウントを削除するように
全部ぜんぶ消してから逝きたい
「だって
死んだわたしのことを
ずっと覚えているんでしょう?」
死んだあなたのことを
いまも覚えている
薄れていくなんて嘘だ
忘却の彼方ってどこだ
時間は手を貸してくれなかった
あなたと出会ったこと
あなたを好きになったこと
あなたが好きだと言ってくれたこと
あなたと結ばれたこと
あなたとの間に子どもがうまれたこと
あなたと命を育んだこと
あなたと一緒に生きたこと
そして
あなたが死んだこと
そこかしこに残っているそれらを
目の前から消し去っても
瞼を閉じればそこにある
あなたがいる
わたしも消えたい
消えてしまいたい
あなたの記憶ごと
消え去ってしまいたい
こんな思い
誰にもさせたくないなんて
人の気持ちも知らないくせに思う
愚かな人間の叶わない夢だ
泡沫とは程遠いのに儚くて嫌になる夢
「何もかも忘れてください」
朝起きたら
夢を見たのかも覚えていない
そんな風に消えたいだけなのに