詩人:亜子
ちいさな靴をみつけた
一息で年月を吹きとばすと
花のかざりをつけた
エナメルの靴だった
少しこすると
ぴかぴかと大好きな艶を
思いだして
むかし私に似合っていたことをほんのりと教えた
エナメルの靴はそれから
もう履かれないさみしさにひとなでされてから
また箱にしまわれた
けれど人との記憶は
履きつぶせないから
会いたい
会いたいと
そればかり
私に忘れられないあなたと
穏やかな忘却の箱にしまわれたエナメルの靴
どちらが豊かな旅路だろう
そこはかとなく
なにかがとけていくような
記憶の旅情がすぎるとき
私はかろうじて
片道切符で
ふみとどまる