詩人:剛田奇作
お元気ですか
一番星
あなたを見上げなくなってかれこれ数年たった
真冬の夕方
覚えていたあなたの居場所
もう忘れてしまった
お元気ですか
あの
用水路の脇の
つゆ草たち
あなたはとても綺麗でしたね
だのに両手いっぱい花びら
もみくちゃにして
ムラサキ色の露で濡れた
小さな私の掌
柵のない危険な用水路
金網つたって
ランドセル背負って
無邪気に渡った
潮風の吹き荒れる西橋は
潮が真横に頬を叩いた
海岸沿いの小さな街
戻れない街
あの頃は家に帰りたくなくて
蚊に射された跡を数えていた
宝物のヤマモモの実は
気付いたらスカートのポケットの中
真っ赤に潰れて
跡形もなかった
私のポケットには今は
レシートと車の鍵が入っている
ポケットは宝物を
無くしたまま
ただポカンと私に張り付いている