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[170476] ボート、或いは空白を眺める男

詩人:色彩

昼下がりのある日、彼はいつもの公園に居た。その公園には、まあまあの大きさの池があり錦鯉や亀に水鳥など、どこにでもいるような生き物達が棲んでいた。そこは春になれば沢山の桜が咲き良くも悪くも皆の話題になる様な公園だったが平日の、秋に差しかかろうとする今の季節では人もまばらに感じられた。公園の出入り口に程近く、彼がいつも座っているベンチには何人かの老人達のグループが座って居るのが見える。彼等は菓子や水筒などを脇に置いて鳩や鯉にしきりに餌をやったりしていた。隣には「園内の生き物に餌を与えないで下さい」と書かれたくたびれた看板が見える。端の方のベンチが一つ空いていたが彼はそこに座る気分にはなれなかった。仕方無く他のベンチを探す事にした彼は、自動販売機で飲み物を買い、池の反対側へ渡る桟橋に差しかかった。橋の中腹でアメリカ人風の男と日本人の女が長々と唇を重ねている。その横を子連れの母親がいかにも決まりの悪そうな顔で通り過ぎて行った。それを見た彼はレディーファーストやフロンティア精神の矛盾について少しばかり考えていると、その内に橋を渡り終えていた。橋を渡った先には貸しボートの店やちょっとした売店なんかが見える。そこを通り過ぎると反対側同様に池に沿ってベンチが並んでいる。彼は景観の良いベンチに座りたかったが、良さそうな場所には皆先客がおり、その殆どは若いカップル達だった。まだそこそこの時間だというのにこれだけのカップル達が公園にはいるのだ。彼はまた園内をしばらく歩かねばならなかった。その間彼は何人かの女友達の事を思った。彼には特定の恋人といえる相手はいなかったが何人かの女友達がいた。彼は時折、彼女達を公園に行こうと誘ったが、皆公園には行きたがらなかった。ひとりは公園には虫がいるから嫌だといい、ひとりは面倒だといった。そして彼は彼女達を公園に誘うのを止めてしまった。そんな事を考える訳でもなく考えながら歩いていると適当なべンチを見つけたので彼は座る事にした。彼のベンチと池との間には桜の木がちょうどYの字状に生えており、手入れのされていない枝が池への視界を遮ぎる形で垂れ下がっている。おまけに地面は少し湿っぽかったし、彼の左足のすぐ近くには土が盛り上がった土竜の巣まであった。そこはお世辞にもロケーションが良いとは言いがたいベンチだったが腰を下ろすとともかく彼の気持ちは落ち着くのであった。

2011/08/14 (Sun)
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