詩人:桜井 楓
雨の降る通り
街路樹から落ちていく雫
古い街並みに見えるのは
あの頃に通(かよ)ったレコード店の
閉じて錆びたシャッターが
どれだけの時間が経ったのかを
僅かばかりにズレた
記憶の断片が
必然的に頭の中に閉じ込めた…
人は誰もが
気にしまい、大したことではないと
思い続けると
かえって
古い滓(おり)が水面へ浮かんでくるように
思い出してしまうもの
本当に忘却できぬそれは
まるで
雨で溜まった水面に薄氷が張り
それを知らぬ間に誰かなのか
はたまた陽の光が溶かしたのか
一度は無くなり
しかしまた一晩にして冷えて凍りついては
再び覆い被せるものとなる…
いつかは明けるとは知りつつも
それがどのような姿であるのかは知らず
たかだか知れた人生に於いては
この街並みの歴史に刻まれる事はなく
だがしかし
確かに触れた雨の雫は
古の内心とは差異もなかった…