詩人:ユズル
水と空気との境界線なんてなかった
ぽちゃんと音が鳴って
何か水の中に潜り込むまでは
小さくだけれど飛沫があがって
やがて消えていった
そのときから少しずつ
水に色が生まれ始めた
淡い桃色にも見えたし
ときに赤ぶどうみたいに揺れて
寝る前の電球みたいなあたたかな橙や
冬にひとり咲いた青い花の色
水はあっという間に表情を変えた
空気はあいかわらず透明で
けれどそれも何故か違うものに見えた
混ざり合ったり反発したり
風が生まれた瞬間のようだった
水と空気との境界線なんてなかった
ぽちゃんと音が鳴って
何か水の中に潜り込んで
美しさと醜さを知る物語
春を夏を秋を粉雪舞う冬を
色づかせ 紡ぎ始めたのだ