詩人:望月 ゆき
サキとは昔から似てなかった
サキは母親似で
それがずっとうらやましかった
サキは生まれたときから妹だった
サキは小学校のころから
勉強が苦手だった
勉強が得意だったわたしは
いつもどこかで馬鹿にしていた
と思う
母親似のサキに
母と仲の悪い祖母はいつもつらくあたったが
それは仕方がないと
思っていた
中学を出ても
普通の高校に入れなかったサキは
普通じゃない仲間と遊ぶようになった
サキの
普通じゃない生活がはじまった
何をしても
親はサキを叱らなかった
悲しんでいた
かどうかは知らない
わたしの知らない間に
高等専門学校も中退していた
ある日
サキの部屋の前を通ると
ドアは開け放しで
中に大きなダンボールを前にしてすわる
サキがいた
「なに、それ」と聞くと
冬物と夏物を入れ替えたの、と答えた
その日の夕方
サキは家出した
住みこみバイト募集
のスナックの切り抜きが
部屋に落ちていた
それがわざとだったのかは聞いてない
サキはすぐ連れ戻された
それからまもなく
サキは年上の男と消えた
今度こそ手がかりは残さなかった
連絡もないまま
半年の月日がたったある日
母の口からサキの名前がはじめてもれた
「あのこがどこかで死んでようと
わたしはもう気にしないわ」
なに言ってるの、と明るくかわしたが
泣きそうになった
不思議とサキのことを憎いとは思わなかった
「もしもし、あたし」と
ケロリとした声で電話をかけてきて
サキは帰ってきた
親は叱らなかった
あきれたようなことを言っていたけれど
母は心底嬉しかった
だろう
わたしは
サキはその後はたちで結婚し
十年後に離婚した
子供はない
なくてよかったね、と周りは言うが
どうだろうか
子供がいるわたしにはわからない
サキが離婚するまえ
はじめて呼び出され
生まれてはじめて
ふたりきりで外で食事をした
そして最後に言った
いつも迷惑かけてごめんね
なに言ってるの、と明るくかわした
あれからずっと
サキからの電話は
ない
サキは今もどこかで生きている
サキとは昔から似てなかった
サキは生まれたときから妹
だった
たぶん、今もそうだ