詩人:老女と口紅。
桃‥
老女の手に
ずっしりと重く
のしかかる
女の
尻にも似た
この肌ざわり
柔肌の
ピンク色はもちろん
表面に生えた産毛さえ
心地よく‥
重さを見ているかのように
おもむろに桃を上下させる老女
その手の下側では
秘め事が行なわれる
中指だけが
ゆっくりと果肉に
食い込んでゆく
桃の けがれない肌に
容赦なく
爪まで
食い込んでゆく…
ゆっくり
ゆっくりと‥
辺りに
だんだん立ち込める
魅惑の甘い香り
指を伝い落ちる
一雫くの愛液
目を閉じながら
しばし
官能の世界へと
墜ちゆく老女‥
不覚・
近すぎる背後から
人の気配‥
足元から延びる
もう一つの影
女性店員だ
店員は言う、
やわらかな物腰で‥
今
この時期の桃、
とっても甘くおいしく頂けますよ
ゆっくりと
桃を置きながら
老女は言う、
何食わぬ笑顔で‥
ホントおいしそうな桃ね食べ頃だわ、
手にするとよく分かるもの‥
でも また今度頂くわ‥
足早にその場を立ち去る老女
何げに 振り返る‥
するとそこには
桃を手に取る
老人が一人
目を
細めながら
品定めへと‥