詩人:どるとる
昨日 夕方 見かけたんだよ
何人もの自転車や人に踏まれて ぐちゃぐちゃになってる 蝶々の死骸
かわいそうだとは思いながらもさわりたくなかったから
僕は無視してその死骸の横を素通りした
醜い自分が心底憎いけど 時々そんな自分がかっこいいとか思ってしまうんだよ
街にあふれてる
そんな醜い感情を背負った人々の群れの中で僕も息をひそめて生きているんだよ
毎日毎日孤独に身をふるわしながら必要とあらば誰かを蹴落としてのし上がるくらいの角張った気持ちで
孤独死したどこかのおじいさんだかおばあさんの手紙っていうようなタイトルで ずっと前にドキュメントで観た
べつに僕には関係ないとほかのチャンネルに回したけど そこには痛切な文字で誰かに救いを求めている年寄りの涙が垣間見えたんだ
きっと誰もが 自分にしかわからない 痛みを今日も明日も背負いながら ずっと生きていくんだろう
冷たい世の中の理不尽で矛盾だらけの風に吹かれて 死を選んだ誰かのことさえもおもしろおかしく語るメディアの心ない番組など僕は観たくもない
その人が生前残した思いだとか気持ちとか形ある何かとか
僕は見たくない
触れたくもない
知りたくもない
その人はそっとしておいたほうがいいのに テレビの中でよそよそしく 取り上げられて その人の何がわかってほしいのか涙さそうような音楽まで流してさ ばかみたいじゃないか
その人の気持ちになれないなら その人の思いを担げないなら
きっと僕や誰かがしたように 現実から目をそらすように
蝶々の死骸素通りしたように その人に関わらないほうが僕はずっと優しい行為だと思うんだ
おかしいかな?こんな僕は
でも僕の気持ちもわかるだろう?
あの群れの中に僕の居場所はきっとないけどまたあの群れの中に身を投げて
僕は明日も必要とあらば 愛想笑いもお世辞もくれてやるんだ
暴風雨に吹かれて。