詩人:どるとる
悲しみひとつ
空から降り出せば
傘を差すまえに
涙がほほを伝う帰り道
いつもは通らない
裏の路地に 赤提灯を見つけて のれんくぐって席に座れば
サラリーマンの憩いの場 おでんの屋台
ちくわぶ ガンモ
ダシのしみた大根
醤油につけこんだ卵
冷えた 焼酎がうまい
はんぺん ゴボウ巻き
厚揚げ 白滝 たまにオヤジのむさ苦しい顔
お客さん もういっぱいいかがですか?
つい飲みすぎた夜
気づけばいい時間
もう帰るわ お勘定すませて いい気分で家に帰れば 酒くさいと嫁さんに言われたけど うるせえと一喝
スーツのまま寝ちまった
大黒柱は思うよりつらいのさ
涙のようなしょっぱい酒あおって
立場なき 居場所なき己のさびしさを唄う
風呂場のひとりコンサート
歌いまするは演歌の十八番
涙酒 唄います
雨上がりの月の夜
スモーク代わりの湯気に包まれて
浪々と僕は唄います
『悲しみは酒といっしょにのみほして さびしさだけが心にしみる 男一匹旅烏 今宵あおるは涙酒』