詩人:剛田奇作
子供は、穴を見ると物を突っ込む
子供は、隙間があると隙間に入りそうな道具を捜して、こじ開ける
変わった出っ張りがあると押すか引くかしてみる
変化がないと、かじってみる
とりあえず分解して壊す
とりあえず水に入れてみる
ときに
子供にとっておわんは、味噌汁を飲む為の道具ではない
液体という掴みどころのない摩訶不思議な物質を立体的に保存できる魔法 の道具なのだ
よって、飲む事より、味噌汁に手を入れてワカメや豆腐が液体の中でゆらめく無重力感、液体っぽさを確かめる事が優先事項となる
茶色い不透明な液体の中に占める豆腐の割合からワカメの沈み方等、あらゆる情報を指先の感触のみで収集する
次に、新たなおかずや米などの具材を投入し、異なる感触を確認する行程に移行
最終的には、実験最大の山場である液体を平面に戻すという試みを行う
しかしこの実験にはかなりのリスクを伴う為、事前に大人の顔を伺い隙を見つける、時々唇をつけて飲むフリをする等の入念な下準備を怠るわけにはいかないのだ
実験終了後も「あぁ!」というやっちゃった感を演出する表情と声を忘れることはない
恐るべき建設的な一連の大作業なのだ
大人がブロックの三つの穴の中をチェックしないのは、そこにお札やダイヤモンドや世紀の大発見となる未知の生物が入っている可能性が限りなく低い事を経験上知っているからであり、せいぜいあるのはゴミとジグモと石ころ位だろうとほぼ断定している
経験則は必要だがあまり頼ると何もかもつまらなくなり、結果挑戦できなくなる
よって、この詩をここまで読み終えてしまった大人は非常に希少な存在であると言えよう