詩人:けむり
ぼくは疾駆する
ぼくはもっと速く走る
ぼくはなにもかも落とし忘れていく
そしてもっと速く走る
どうして大切なものを胸に抱き続けられないのだろう
ぼくの手は冷たかった…?
暮らす街の違いよりもずっと遠い距離が
それは柿の木が実をつけるよりも長い時間で
有刺鉄線におおわれている
会いに行けないもどかしさ
君はこばむだろう?
水と油の比喩がぼくらには似合いさ
君は冷めてしまった
ぼくは業火となって行く当てもなく荒れるのだ
近寄るもの全てを焼き払う勢いで
ぼくは走る
かなうなら君の暮らす街へ
だが混沌へ転げ落ちているにすぎない
ぼくは自らを切り裂く凶器だ
ぼくはカール・ルイスだ
とめどもなく煮立つ怒り
だがそれは同時に氷よりも冷たい空だ
一億光年のかなたへ君を捜す
鳥に似た雲が空から先へ飛び立とうとしている
羽をくずす前に!
溶解手前のカッターナイフによってぼくは突き動く
早く 一分でも早く ぼくは補わなければならない
君のいなくなった空白を
空白が凝固しつつある溶炉の中の欠損を
だが君たりえるものなど君をおいてあるだろうか…
ぼくは疾駆しなければならない
ぼくはもっと速く走らなければならない
ぼくはなにもかも落とし忘れていかなければならない
そしてぼくはもっと速く走らなければならない
ぼくは君を忘れ
思い出の前後までをも忘れ
素晴らしく新しく
愛を探し始めたい
愛がなにかなんて分からないけれど