詩人:甘味亭 真朱麻呂
人があの世の世界に旅立つまでの一秒前に見るさいごの景色はシアター
きれいなシアター
映写機が回って映し出すのはピンぼけの幼い日の僕とその毎日
もはや写真でしか見れない世界だから今思い出そうとしても無理かもしれないんだ
それほど歳をくったって事だね
あれほど泣きに泣いた日々も今では嘘みたいだけど笑い話にして語れるよ
今だからこそあの涙も痛くなかったって強がることができる
鼻を豚にして窓に顔をひっつけて僕は終わりの列車の窓から地上をはなれるほど遠くなる懐かしい街並みを空の上から見てた
いろんな思いがめちゃくちゃに混ざった気持ちで
さいごのシアターを見終わったあとにはさびしい静寂だけが
映画館をつつんで
人間たちみんな映画館をあとにして
雨の降る駅へ急ぐ
死に際に間に合うように
なぜか涙 拭わずに
すべての人の見る人生という題名の映画がさいごのひとりまでつつがなく終わり世界が幻になるまで
さいごのひとりはさいごの一秒まで粘って手を空にかざし雨の冷たさ確かめる
それは悲しいだけじゃないストーリー
あらすじも吹き出しもないストーリー
決まりのないワンダーランド
とても不思議なシアター
その中でくたばるまで
その時がくるまで笑ったり泣いたりして見続けるシアター
今に悲しみ
過去を笑い
未来におびえ
くりかえす日常
忘れないように瞳に今を焼き付けて
人は死ぬずっと前から心に記す
ボクならさいごに見る景色よりもきっとこの物語の終わりの一秒に見る景色よりもずっとずっと大切なのは生まれてからくたばるまでのあいだの時間だと記すだろう
さいごがきれいにみれたら確かに素敵だけれど
すべてが素敵に思える日々があっての輝きだからボクはそれまでの時間を大切にしたい
そう思うよ
さいごのさいごのシアターよ。