詩人:望月 ゆき
いつだってただ生きるためだけに眼をこらしているけれど
たしかにあの頃はそうして寝転んだまま泣いてさえいたら
おいしい物だとかやわらかい声だとかあたたかい手だとか
そういうものはいつもかたわらにあたりまえにあったので
そうしていればいいと思っていたしそれは間違ってたわけ
じゃなかった 少なくともぼくはちっとも変わってないし
変わったとすれば大人達とか酸素とか世界とか地球とかで
おかげで今じゃあすっかり下ばっかり向いて毎日毎日毎日
生きるためだけに耳をすまして声を発して眼をこらしてる
そんなんで人生たのしいのなんてたまに聞かれたりなんか
するんだけれどもそうなってしまったことは仕方ないこと
で誰かを責めてもどうにもならないし誰を責めたらいいか
よくわからないのでとにかくもう楽しむことに決めたんだ
寝転んでいても誰も何も運んできてはくれないのだけれど
それでもときたま誰も見ていないときには空のはじっこで
ごろんと仰向けになって宇宙をながめながら来ない誰かを
待ってみたりなんかして カラスだってもきっとおんなじ。