詩人:halcyon
あなたが、いなくなった
呼吸をするのをやめて
冷たく硬くなり
花に囲まれ
煙になって空に溶けた
ほんの少しの
まっしろな、骨を残して
わたしはただただそれを
瞬きもしないで
じっと見つめていた
そうやってどんどんあなたがいなくなってゆくのを
止めることはわたしには
できなかったからせめて
そう、せめて一つも見逃さないようにと
ぎゅっと噛んでいたくちびるが裂けて口紅を塗ったように赤くなっていた
舐めるとちり、
と鈍い痛みが走る
あなたの前ではのせたこともないようなその赤は
窓にうつるわたしに
皮肉にもよく似合っていた黒いワンピースの袖で
その赤を乱暴に拭って
赤い口紅はこれから先何があっても塗らないと決めた
夜
眠れるわけもなく
誰もいない道路
ひたすら車を走らせた
ふと開けた助手席のダッシュボードから白い封筒がひとつ
闇にぼんやりと光るそれからはあなたの煙草の匂いがした
「僕がいなくても
わらってよ」
確かに声が聞こえた
あなたのあのやさしい字でたったひとこと
便箋の上だけじゃなかった
涙が溢れた
目を閉じるとそこには
あなたがいた
それはきっとこれからもずっと