詩人:遥 カズナ
焼き芋を入れた
紙袋を抱え
夕暮れ時
家路を歩く
仕事初め
仲の悪い会社の同僚が
脳腫瘍だと言う事で欠勤していた
なんでも構わないから
「いなくなってしまえば良いのに」
と、常日頃、思っていた
あまりにも風が冷たくて
マウンテンパーカーのフードを被る
こんな寒さも
同僚が味わったであろう
痛みと不安はとでは
比較にもならないだろう
いつの頃から
人の不幸を願うように
なってしまったのか
いや、案外、小学生の頃から
いじめっ子の事を
そんなふうに考えていた
温かい紙袋と匂いに
気を取られると
もっと幼かった頃の記憶が蘇る
拾った仔犬を
もといた場所にかえしてくるようにと
母親に叱られ
姉に連れられ
泣きながら
近所の人のいない廃墟に
そのぬくもりを
置いて帰った
翌日、訪れると
もう、どこにもいなかった
同僚は内地から来ていて
故郷を捨てるように
この土地で嫁を貰い
移り住んでいた
「帰りたい」と
思ったこともあったのか
捨ててきたものを
取り返したい程の
耐え難い痛みがあったとしても
帰れる場所とひきかえに
ぬくもりを置いて
去れない勇気は
俺にはない
同僚の療養はきっと長くなる
人手が足りなくなる分
明日からは忙しさも
さらに増していくだろう
仔犬にしても、同僚にしても
それは俺ではなかった
もうすぐ家に着く