詩人:高級スプーン似
うまれつき鼻のない彼は
正直者で
優しい心の持ち主だった
まるわかりの嘘にも
素直に騙されて
ひどい目に
遭わされてばかりいた
いくら傷ついても
相手を憎むことはなく
どれだけ
嫌な思いをしても
それは変わらなかった
人を信じて疑わない
誰にでも平等に接して
そして
誰からも嫌われていて
コイツ
鼻がないんだぜ?
嘲笑の渦中にいつも
彼はいた
差別と
偏見の目に囲まれ
度重なる暴力の果てに
見るも無惨な姿となって
彼は死んだ
血みどろなま臭い
鮮やかに流れる
それを見て
残酷な人々は思った
アイツの血も赤いんだ
片足を引きずりながら
キツネはどん底から
這い上がろうと決意した
盲目のネコは
絶望の淵に立たされても
光を見失わなかった
正直者で
優しい心の持ち主を
見習って
騙されていたことにも
気付かずに
キツネもネコも
人間たちも
知らなかったんだ
彼から鼻が消えたのは
うまれたあとの話だと
嘘をついても
バレないように
自分で
削ぎ落としたことを
みんなは知らない
彼がまだ幼かった頃
五体満足のぼくを
苛立ちから
ハンマーで
殴り殺したことさえも
それでも
アイツは人間で
彼の血は赤いんだ