詩人:剛田奇作
春がきたなんて、浮かれていたら
風邪をひいて会社を休む羽目になった
熱にうなされ 目を擦る深夜0時
三ツ矢サイダー片手にフラフラと裸足でベランダに出た
真っ暗な春の夜
湿っぽい風
星も月もない低い空
昼間干したバスタオルが微かな風に揺れている
春の真夜中は 優しい香りが立ち込め、空間が温かく潤っている
汗ばんだ寝巻のあいだを、涼しい風が通り過ぎる
ふいに忘れていた君の服の香りを思い出す
君と会ったのも春だった
春の夜の、甘い悪戯
優しい記憶
熱は下がらず
ますます喉は渇き
裸足の足だけ気持ち良い
春の夜はすべての不快を
甘い夜風に溶かしてしまう
今度はミルクティーが飲みたくて
はかばかしくも
空に指でティーカップを作ったりしてみる
確か君と初めて入った喫茶店はコーヒーで有名な店だった
君はクリームソーダを頼んで
UFOキャッチャーをしたいと言った
一瞬
触れた、バスタオルの湿っぽさが
僕を現実に戻してしまう
春の夜は、ゆっくり微笑む