詩人:望月 ゆき
目がさめると
世界は半透明だった
そうか、ゆうべ
基地をつくったのだ
求めていた体温に
ほどちかいぬるさと
液体でも固体でもない感覚の
その場所で
眠ることは
ひどく ここちよかった
どうしようもなく半透明なのは
視界だけではなく
からだごとのようにさえ思えて
ゆっくりと
わたしの四肢に触れてみる
たしかめることは
かなしいことだと知った、遠く
錆びついた記憶が
落下する
寒天の壁、
その向こうで
男が身支度をしている
男の背中からは
ひとすじ
川が、細く流れだしていて
不必要なほどたくさんの微生物を
泳がせている
あの川底に基地をつくれたなら
よかった
ドアが閉まり
川は階段を流れ落ちてゆく
その音も振動も
すべて
寒天が吸収し
もう、今は
坂道に見えなくなるころ
そうして 入れ違いに
明日がまたやってくる
その気配で わたしは
もうしばらく
基地から出ることができない