詩人:望月 ゆき
透きとおる真昼に
日常が、消えていく
八月に買った青いびいどろは
もう割れた
観覧車に乗りたいと言ったのは
あのひとのほうだった
てっぺんに着いても
世界はちっとも見えなくて
あのひとは教えてくれなかったけれど
そんなことは
ずいぶん前から知っていた
わたしからあふれ出たことばと
うすいガラスの鳴き声
だけが そこいらじゅうに
つめたく散らばっていて
わたしたちは
できるだけ、ゆるく
手をつないだ
てのひらの温度がいつもしっくりきた
わたしのか
あのひとのか
わからない体温をつないだまま
となりで笑って
あんなにも許しあった
のに
今では もう
ときどき夢であうだけの
たよりない存在となってしまった
びいどろの音をわすれていくように
すこしずつ
わたしをひき算していくと
伝えるべきことばだけが
ちゃんと、のこる
それをテーブルの上に書きとめて
いつかまた、って約束した
あの
うまれおちた八月に、かえっていく