詩人:甘味亭 真朱麻呂
愛用のこの枕
この枕には思い出がしみこんでいる
君との思い出が ただの枕じゃねえんだ
この枕は僕を深く安らかな眠りに誘う
おきにいりの枕
君と免許取れたてのときちょっと粋がって遠くのお店まで行って買った枕
やっとの思いで帰ってきた記憶だけが今も真新しくて笑える
あの日のあたふたした僕が記憶の壁を通し見える
喜びの笑顔も悲しみの涙も僕のこの枕はしっている
枕は君と半分ずつ分け合って寝た記憶も覚えている
でも昔と違うのはあの頃の匂いを含みすぎてるから僕は毎夜涙で枕をぬらすこと
だからおかしな事に枕カバーだけいつ取り替えてもいいように何枚も何枚もタンスにしまわれてる
ばかみたいに同じ色の
君が好きだった
なぜかすべてがまだ終わっていない物語のようだ
今もこの続きを信じてる
明日もこの続きを待っている
始まりなどもうしないのに しないのに…
ああ せつない 認めがたい比類なき決別
頭の中に君の顔が浮かぶ
あの日は数センチにも満たなかった距離が今では心の距離さえ何千光年にも離れた悲しみ
今 また 涙が枕をぬらす 僕の顔中から雨が降ったようなくらい枕はずぶ濡れ
タイタニック号が沈没した深さよりずっと深い深いところまで僕を犠牲に沈む
君は今 どこにいる?
枕は僕を睨む
詮索はなしにしよう
もう寝よう
ひとつしかないあの愛用の枕で
悲しいくらい愛しいあの枕に死ぬまでずっと命もすべてうずめよう
涙も笑顔もあずけて優しさを分けてもらおう
思い出は楽しいほうがいい
ふと思った夜
ふとよぎった事
今宵もまた枕はビショヌレ
そんな枕でも唯一僕に優しい枕
別れた君ごと
今でも
愛してる
忘れるにはまだ
深すぎた愛の時間
かき消すにはああ
深く刻みつけすぎた
君との思い出を。