詩人:地獄椅子
俺を馬鹿にした女を、俺は犯した後に殺した。
愛という真実に捧げし生け贄が、教壇の前に貢がれる。
ステンドグラスからは、残酷な色の光が差し込み、この一瞬だけ、教会の空気は冷ややかに豹変する。
俺の罪は神の罪。
愛の導きに従い、それを実行してみせた。
法の名の下に、裁かれる日が来たとしても、俺は何も省みることはない。
あの女が俺を蔑ろにしたのだから、責めるべきは女の方だ。
俺の任務は愛。
それに背徳する者あらば、相応の罰を与えるのみ。
殺した後、実は笑ってしまったんだ。返り血を浴びながら、こんなもんかと拍子抜けして、無意識に笑ってしまったんだ。
命って軽い。
それは脆弱で、簡単に奪えてしまう。
俺は笑った後恐くなって平常心ではいられなくなった。
肉体という砦に守られた命は、偶発的な出来事によって、易々と消えてしまうから。
目前の死が他人事とは思えなくなった。
教会は不気味なくらい静まり返り、生理的な嫌悪感を覚える。
世界には誰も居ないかのような戦慄が、ふと背筋を凍らせる。
真っ白だった服は血染めの真紅色に染まりきって、俺の罪状を決める裁判がいつか訪れるなんて現実感は、皆無に等しかった。
全裸の女の死体は、一緒に鐘を鳴らす相手がいたというのに無表情のまま、ステンドグラスからはもう光が差さない。