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[143575] 大泥棒は悲しみを盗みに

詩人:甘味亭 真朱麻呂


めいっぱい笑いたかったはずの今日も結局笑顔ひとつすら浮かべられず
それでも見上げた空に沈んでいこうとする夕陽が綺麗で 思わず涙を流してしまった
嫌なことのお次には良いことがかならずあるからと誰もがいうけど
繰り返し繰り返し波のようにいうけど
僕にはそれを裏付けるあかしさえ見たことがない
良いことは確かにあることにはあるけれど
かならず良いことの陰には不安がつきまとうから
素直に喜べない
そんな不安にばかり気を取られて良いこともなんだか色あせて見えちゃって大したこともないってなるんだ
稚拙なほどの気持ち
わかってる
喜ばなくちゃ
笑わなくちゃ
でもそれさえできない
なぜか目につくのは悲しみだけで 苦しみだけで
まだたどり着いてもいない明日にさえおそれを抱いてしまう心
夕陽のいなくなった街はやがて夜の魔王の占領下に落ちた
まるで昔よく見た大泥棒のマントを空じゅうに広げたような真っ黒な空
僕の両の目に映る

悲しみはこの夜の深い青の世界を泳ぐ
魚のように 時おり夜を抜け出して朝にまで戦力をひろげる
僕の笑顔を喰らいに魚たちの群が僕の中にある瞬間しのびこむ

姿も形も見えない大泥棒は僕の明日を華麗に盗んだ
キラキラ光る宝石よりも価値があると睨み
夜の闇の黒と違わぬ真っ黒なマントをひるがえして奪いにくる 予告もなく突然に ひ弱な大怪盗

悲しみは宝石より価値があるものだと言い放った遠い昔の誰かさんは感情をそなえた生き物にしかわからない貴重な感情だとも言った

だから 大泥棒は盗みにくる 今夜こそ
悲しみの価値をはかりに来る
涙の値打ちを解って来るんだ

あの不適な笑みと涙という盗んだ証だけを僕に残して
大泥棒は次の悲しみにそなえて準備に入る
そして僕の心には盗まれた後不思議と悲しみの代わりに喜びが残されてるんだ
憎いぜ 大泥棒。

2009/05/15 (Fri)
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