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詩人:たかし ふゆ
金曜日に髪を切りに行った
山崎さんの指が相変わらずしなやかで
僕の髪も相変わらずへたり癖で
世界は変わらない
と思ったのに
道すがら、交差点でお地蔵さんを見掛けて、まじまじと見る
果たして、こんな顔立ちだっただろうか
エントロピーが拡がり続けていくように
世界はアップデートを加速し続ける
別れたとき、元カノが「他の人の彼女になったよ」、とメールしてきていて
付き合いだした頃の温度と、その時の温度とを天秤に意味もなくかけた
夕暮れの時計台
伸びていく給水塔の影
風に舞いながら
空を漂ういくつもの折り紙たち
秒針の音だけが響いて
怒りもせず、悲しくもなく
僕は歩き出す
ただ、何かの終わりだけを実感しながら
見えない涙や傷を抱えながら
僕らは生きている
切り落とされる髪の毛のように
伸びきって、いつかそれらが身体から離れていくまで
煙草の煙がくゆる自室
切れかけのトイレットペーパー
机の上の、書きかけの文字